last updated on 2 Feb 2004
 
 
  
 
 

変形菌は、「粘菌(ねんきん)」、「菌虫(きんちゅう)」、あるいは細胞性粘菌と区別するために「真性粘菌」とも呼ばれている。種数的には小さい生物グループで、世界で約900種、日本で約450種しか知られていない。そのうちの100種ほどは世界的汎存種で私たちの身近にごくふつうに存在しているが、多くの種類が2ミリに満たないほど小さいために野外では見過ごされている。しかし、ルーペや実体顕微鏡で拡大してみると、形も色も変化に富み、その美しさと奇妙さに多くの人々が昔から魅了されてきた。

 
 
 
 
ツノホコリ
ルリホコリ
 
 
 
 

変形菌のライフサイクルは、動物的時期と菌類的時期をあわせ持つ。胞子は、発芽してアメーバ状か鞭毛を持つ細胞になる。この細胞は、バクテリアを食べ、二分裂して増殖する。これらの単核の細胞は、配偶子としての機能を持ち、異性の細胞と合体し、引き続き核融合が行われる。できた接合体は、バクテリア、カビ、微小藻類などの微生物を捕食して増殖するが、細胞質分裂を伴わない核分裂を繰り返すため、無数の核を持つ単細胞で大形のアメーバ体(変形体)に生長する。変形体は、成熟すると環境条件の変化に反応して胞子形成を始め、核と同数の胞子をつめた袋状の子実体に変身する。このように変形菌は、アメーバのように餌を捕食して増殖する時期とキノコのように胞子を作って繁殖する時期を交互に繰り返すため、分類学上いつも問題にされてきた不思議な生物である。リンネ以前より菌類の仲間として扱われてきたが、ド・バリーの研究(1858)以後は原生動物として扱う研究者が増えている。

 
 
 
 
 
   
 
 
 

変形菌は、倒木、切り株、落枝、落葉、枯れ草、落下した花や果実などの植物遺体に発生するのが普通であるが、植物遺体以外にも見られ、ウサギ、シカ、ウマなどの草食動物の糞にも発生することが報告されている。生きた木の樹皮の上にしか発生しない変形菌も多く知られている。また、アメーバ運動をして移動する変形体が岩石や、生きた植物、キノコなどにはい上って子実体を形成していることもある。

変形菌は、水分と餌とある程度の温度が満たされれば一年中発生するといえる。日本において最も多種、多量に発生するのは、梅雨の後半の晴れ間や梅雨明け頃である。盛夏になると乾燥するために発生が少なくなる。秋から冬にかけての時期は、春から夏にかけて発生する種類とは異なった変形菌が見られ、大きな腐木に発生することが多い。春から夏の雪解けの頃、高山の雪線付近に好雪性の変形菌がしばしば大発生する。

 変形菌の分類学的研究はキノコと同様に子実体の形質の比較に基づいて行われており、国立科学博物館所蔵の変形菌標本はすべて子実体を熱処理で乾燥して作成された乾燥標本で、それぞれが小形の標本箱に納められ、学名のABC順に配列されている。2003年4月現在、約41,500点が保管されている。これらの標本データは、一部を除いて当館のホームページに順次公開していく予定である。